音楽において最も必要な能力とは?(2018年10月12日)

2018-2019シーズンが始まり、これから数週間、数か月先にある出来事に思いを馳せとても楽しみにしているこの頃ですが、皆さんもそれぞれ素晴らしい予定を立てたでしょうか?

本当に色んな事が同時に進行しているあわただしい状態とあっては、なかなか何に焦点を当てたらいいのか、どれを選んで事を進めていけばいいのかわからなくなる時がありますよね、音楽においても人生においても。私自身も現在やらなければならないことはたくさんあって、それに取り組むうちに無数の発見や可能性に改めて気づかされ、圧倒されることが時々あります。

そして確かに、全てを満遍なくやるなんて至難の業です ― 音楽に打ち込みながら一方で、普通の人間として(社会人の一員として)古き友人に再会したり新しい友人をつくったり、ジムに通って身体を鍛えたり、間近のハロウィンで何を着てどんな仮面を被ってどんなお菓子を子供に配って、など考える人も多いのではないでしょうか?? - これらすべては実際、社会的生活上相互に関係しているわけですが、すでに人生に満足し切っているのではない限り、残念ながら物理的にすべてを両立させることは現実的ではありません。長く遠い先の未来を視野に入れた青写真のようなものを強く意識し、それによって高い優先度を持つものとそうでないもの、集中すべきものが何かをはっきりさせなければ、どっちつかずの人生に決着してしまうことになりかねません。人生の展望について聞かれても、うまく答えられない人や答えがそもそもない人もたくさんいることでしょう。いずれにせよ、何をするにあたっても、それが自分の掲げる目標や未来図に近づくことになるか、遠ざかることになるかということを一番に踏まえて選択・決断をした方がよいと私は考えています。

閑話休題。それでは本題へ >>>>>>

 

音楽家にとって多様な局面で必要な能力や技術といったものはたくさんあります。楽器によって技術の種類や質が異なったり、アンサンブルの形態や環境・音響によって技術を使い分け・使いこなすということも必要になってきます。

音色の追究は必要か? はい、必要です。

音階の練習は必要ですか?  はい、必要です。

呼吸の練習は必要ですか?  もちろん必要です。

これら全ての事柄は大いに役立ちます。しかし現場の音楽シーンにおいて、これまでにないほど求められている能力が一つあります。

 

それはズバリ、「初見・譜読み力」 です。

 

これは21世紀の現在の世界で最も不可欠でありながら完全に見落とされてしまいがちな能力でもあります。私の個人的な意見としては、この能力こそが厳しい音楽業界を生き抜いていく人とそうでない人の分かれ目となると考えています。

ー ではなぜこれが音楽において最重要な能力なのでしょうか? ー

現状では、大多数の音楽家・演奏家がどこかしらのオーケストラ(もちろんプロの!)に入って落ち着くことになります。プロジェクトや活動はそれなりに楽しくやりがいもある一方で、次々と押し寄せてくる新曲の嵐による重圧に悩まされる人も少なくありません。新曲の多くに単純に骨の折れる厄介なパッセージがあふれていて、特に経験の少ない音楽家にとっては負担も大きいはずです。

こういった実情は今後20年先もおそらく変わらないとみてよいと思います。なぜなら、収益の多い楽団やその運営本部は常に質の高い音楽を大量に提供していくということを基本方針・戦略としており、他の楽団との競争に負けるわけにはいかないからです。その結果、楽団員の人たちはどんな曲であれ短期間で習得して本番に出られるようにしなくてはなりません(例えば1週間以内にせいぜい2,3回のリハーサルで公演を迎える)。

(ロンドンに住んでいた頃に頻繁に名門のロンドン交響楽団のリハーサルやコンサートを見ていましたが、彼らのスケジュールは至極過密です)

真面目に楽曲を勉強するならば、1週間ではとうてい不十分です(もちろん何か得るものはあるでしょうが)。しかしながら実際には、ほとんどの音楽家は公演が比較的間近になっていても手始めが遅いため、結局全てを土壇場に委ねることになるケースがかなり多いです。これはうまくいけば良いですが、失敗作に終わった例もあります。いわゆる準備不足っていうものですね。運営部の計画ミスということもあるかもしれません。

言うまでもなく、鍵となるのは「極力早いうちに取りかかって、時間に余裕をもたせる」ことですね。これはとても理にかなったアプローチで、有効だと思います。

もう一つ、初見・譜読み力を向上させるために同様かより効果的な方法を紹介します。

少し前のある日のことですが、私が現在いるミラノのスカラ座アカデミアオーケストラにバレエ公演で指揮者としてデーヴィッド・コールマン(David Coleman)氏が来ました。知らない人もいるかと思いますが、ヨーロッパにおいて主に劇場でのオペラやバレエなどの指揮で一定の評価がある年配指揮者で、頼りがいはある人です。先ほども言ったように、譜読みが不得意な人が多いようで、チャイコフスキーの眠れる森の美女のリハーサルの際、音の間違いや不正確な音程や音そのものの抜け落ちなどの多さにコールマン氏はやや(かなり?)幻滅してオーケストラ全員にこう言いました。

「これから毎日最低1曲新しい曲(以前にやったことのない曲)を譜読みするようにして、それを習慣化するように」と。

始めの方では、意識的に自分で新曲と向き合う時間をつくる努力をしていかなければなりません。それでも継続して日数を消化していくにつれ、やがて譜読みがどんどん速くなり、それほどがむしゃらに頑張らなくてもより正確な初見・譜読み力が自然とついてくるようになるのです。

そうすれば、自分自身の力でスムーズに譜読みをする習慣とその方法を確立することができ、その頃にはいかなる新曲(古典の曲であれ現代曲であれ)にも面食らうこともなくなるでしょう。

そしてついでに、これは常に最高レベルを目指す人や上級者向けのアドバイスですが、

楽曲を勉強する時には、必ずスコア(ミニチュアスコアや指揮者用フルスコア)を用いましょう

CDや録音を聞く人はたくさんいると思います。これは役に立つことで必要なことです。しかしながら、楽曲を学ぶプロセスは聴覚という分野のみにとどまらないのです。これは若干科学的な話になりますが、音や音楽の認識・記憶という側面から、プロセスを完了させるためには、とても大事な耳で聞くということ以外の作業が必要になってきます。これは近いうちに詳しく話をしていきたいと思います。

そして楽典や曲の構造を理解する能力(和声、対位法、楽曲形式など)や曲の核となる特徴を集合的に捉える能力(各声部の相互的な関係、旋律・内声・伴奏の役割など)も備えていないとなかなか難しいでしょう。

詳しくはまた今後に書きます。

松川 暉

 

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